【2025年6月14日更新】

　皆さん、おはようございます。

　塗替え情報館・清水町本店のアドバイザー、佐野です。

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　本日は、「無機有機複合塗料」について書いていきます。

　近年、塗料業界において「無機有機複合塗料」というワードが注目を集めています。

　これは、従来の有機塗料が持つ柔軟性や密着性といった利点と、無機塗料が持つ超高耐久性や不燃性といった利点を融合させた、まさに「ハイブリッド」な塗料です。

　建物の長寿命化、メンテナンスコストの削減、そして環境負荷の低減といった現代社会のニーズに応えるべく、無機有機複合塗料は次世代の高機能塗料としてその地位を確立しつつあります。

１．無機塗料と有機塗料の特性と課題

　無機有機複合塗料の理解を深めるためには、まずそれぞれの単体塗料の特性と課題を把握することが重要です。

①有機塗料（アクリル、ウレタン、シリコン、フッ素など）

特徴:

• 有機物（炭素を含む化合物）を主成分とする。
• 柔軟性: 塗膜が柔軟で、下地の動きや温度変化によるひび割れに追従しやすい。
• 密着性: 多様な下地に対して高い密着性を示す。
• 施工性: 比較的塗装しやすく、色彩も豊富。
• コスト: 無機塗料に比べて初期費用が安価。
• 種類: アクリル、ウレタン、シリコン、フッ素樹脂塗料など、耐久年数や機能に応じて多岐にわたる。

課題:

• 耐候性: 紫外線によって有機結合が分解されやすく、塗膜が劣化（チョーキング、変色、ひび割れ）しやすい。特に、アクリルやウレタンは数年で劣化が見られる。
• 耐薬品性: 無機物に比べて化学物質に対する耐性が低い場合がある。
• 耐熱性・不燃性: 有機物のため、耐熱性や不燃性に劣る。

②無機塗料（セメント系、ケイ酸系、ガラス塗料など）

特徴:

• 無機物（炭素を含まない化合物、鉱物由来の成分など）を主成分とする。 ケイ素（Si）が主な結合を形成するものが一般的。
• 超高耐候性: 紫外線や酸性雨に強く、ほとんど劣化しない。
• 不燃性: 鉱物由来であるため、燃えない性質を持つ。
• 耐汚染性: 静電気が帯びにくく、親水性が高いため、汚れが付着しにくいか、雨で流れ落ちやすい。
• 硬度: 塗膜が非常に硬く、傷がつきにくい。

課題:

• 柔軟性: 塗膜が硬いため、下地の動きに追従できず、ひび割れしやすい。
• 密着性: 下地によっては密着性が劣る場合がある。
• 施工性: 塗装が難しく、専門的な技術を要することがある。
• コスト: 初期費用が高価。
• ひび割れやすい特性から、単独で建材の保護に用いることは難しかった。

２．無機有機複合塗料の開発背景と概念

　上記のように、有機塗料と無機塗料はそれぞれ一長一短があり、特に無機塗料の「硬すぎてひび割れやすい」という弱点が、建築分野での普及を妨げていました。

　そこで、これらのデメリットを補い、メリットを最大限に引き出すために開発されたのが「無機有機複合塗料」です。

概念

　有機系樹脂（フッ素樹脂、シリコン樹脂など）の主鎖に、シロキサン結合（ケイ素-酸素-ケイ素結合）などの無機結合を導入したり、あるいは有機樹脂と無機フィラー（充填材）をナノレベルで複合させたりすることで、両者の特性をバランス良く兼ね備えた塗料を実現します。

重要なポイント

　単に有機塗料と無機材料を混ぜ合わせただけでは、それぞれの特性が十分に発揮されません。分子レベルで結合させたり、均一に分散させたりする「複合化技術」が、この塗料の性能を左右します。

　特に、有機樹脂の主鎖に無機結合を導入する技術は、塗膜全体の安定性を高める上で非常に重要です。

３．無機有機複合塗料の主要なメカニズムと特性

　無機有機複合塗料の多くは、塗膜の主骨格にシロキサン結合を多く含ませることで、無機的な安定性を実現しています。

　このシロキサン結合は、ガラスやセラミックと同じ構造であり、紫外線や熱、水、化学物質に対して極めて高い安定性を示します。

　また、現在「無機有機複合塗料」や「無機塗料」と呼ばれる塗料は有機にはフッ素を選択し、下記のような高耐久を実現させました。

①主要な特性

超高耐候性・長寿命:

• シロキサン結合は、有機結合に比べて紫外線によって分解されにくいため、塗膜の劣化が極めて遅いです。これにより、チョーキング（白亜化）や変色を抑制し、期待耐用年数は25年以上、あるいはそれ以上と、フッ素樹脂塗料を凌ぐ耐久性を持つ製品も登場しています。塗り替え回数を大幅に削減でき、ライフサイクルコスト（LCC）を劇的に低減します。

超低汚染性:

• 無機質の特性により、塗膜表面の帯電性が低く、大気中のホコリや排気ガスなどが付着しにくいです。
• さらに、親水性（水になじみやすい性質）が高い製品が多く、雨が降ると汚れが洗い流される「セルフクリーニング効果」を発揮します。これにより、建物の美観を長期間保つことができます。

不燃性・難燃性:

• 無機成分を多く含むため、有機塗料に比べて燃えにくく、不燃性や難燃性を示す製品が多いです。火災時の延焼を抑え、安全性の向上に貢献します。

高硬度・耐傷性:

• 無機成分の影響で塗膜が硬く、傷がつきにくい特性を持ちます。これにより、物理的な摩耗や衝撃に対する耐性が向上します。

防藻・防カビ性:

• 塗膜が緻密で、カビや藻類が繁殖しにくい環境を作る上、防カビ剤・防藻剤が配合されている製品も多いです。

有機塗料の利点を維持:

• 柔軟性: 無機塗料単体では硬すぎるために生じるひび割れの問題を、有機樹脂の柔軟性で補い、下地の動きに追従できる塗膜を形成します。
• 密着性: 有機樹脂の優れた密着性を活かし、様々な下地に対して安定した塗膜を形成します。
• 豊富な色展開: 有機顔料を使用できるため、色彩表現の幅が広いです。

４．無機有機複合塗料の種類と主要メーカーの製品

　無機有機複合塗料と一口に言っても、その複合化の技術や主成分とする有機樹脂の種類によって特性が異なります。

　主なメーカーと製品は以下の通りです。

①ＫＦケミカル株式会社

　無機有機複合塗料のパイオニアであり、その技術力は高く評価されています。

代表製品:

• セミフロンスーパーシリーズ（セミフロンスーパーマイルドⅡ、セミフロンスーパーアクアなど）: 主成分のフッ素樹脂の分子内に、紫外線に強いシロキサン結合を導入した「超耐候性フッ素樹脂」をベースに開発されています。この独自の技術により、フッ素樹脂の優れた特性をさらに向上させ、期待耐用年数25年以上という超高耐久性を実現しています。超低汚染性も非常に高く、環境にも配慮した弱溶剤タイプや水性タイプも豊富です。

特徴:

• 独自の「超耐候性フッ素樹脂」技術による圧倒的な耐久性。
• 特に耐候性と低汚染性に強み。
• 長期間にわたるライフサイクルコストの削減に貢献。

②日本ペイント株式会社

　総合塗料メーカーとして、無機有機複合技術を様々な製品に応用しています。

代表製品:

• グランセラシリーズ: 日本ペイントの建築用塗料の最高峰に位置付けられる製品です。セラミックハイブリッド技術により、超高耐候性、超低汚染性、優れた防藻・防カビ性を実現しています。特に、ラジカル制御技術を搭載し、塗膜の劣化を抑制することで、長期的な美観維持を可能にしています。
• アプラウドシェラスターⅡ：高意匠性にも対応した無機ハイブリッド技術による塗料。

特徴:

• ラジカル制御技術など、塗膜劣化抑制技術に注力。
• 豊富なカラーバリエーションと艶調整が可能。
• 高い防藻・防カビ性能。

③エスケー化研株式会社

　建築仕上塗材のトップメーカーとして、多彩な無機有機複合塗料を提供しています。

代表製品:

• エスケープレミアム無機シリーズ（水性エスケープレミアム無機、エスケープレミアム無機マイルドなど）: 無機系樹脂と有機系樹脂を独自の技術で複合させた塗料です。超高耐候性はもちろんのこと、超低汚染性、高い防藻・防カビ性を兼ね備えています。水性タイプも充実しており、環境配慮が求められる物件にも対応可能です。特に、幅広い下地への適用性や、微弾性機能を持つ製品も提供し、ひび割れ追従性を高めています。

特徴:

• 超低汚染技術に特に強み。
• 環境対応型の水性タイプが充実。
• 微弾性機能を持つ製品もあり、下地のひび割れ追従性を高めている。
• 豊富な色展開と、下地から上塗りまでトータルな提案が可能。

④関西ペイント株式会社

　幅広い塗料製品を展開する中で、無機有機複合技術にも注力しています。

代表製品:

• アレスダイナミックMUKI（マイルド/水性）: 無機成分と有機成分をナノレベルで複合させたハイブリッドタイプの塗料です。超高耐候性、超低汚染性、そして高い防藻・防カビ性を実現しています。特に、水性タイプも提供されており、環境負荷を低減しつつ、最高レベルの耐久性を追求しています。
• ラグゼMUKIシリーズ：　（関西ペイントＨＰより）新たな外壁用・屋根用塗料シリーズ「ラグゼMUKIシリーズ」は、関西ペイント独自の無機と有機の融合技術による次世代塗料で、ふっ素樹脂塗料を超える建物の美観と耐久性を実現させます。「紫外線や酸性雨などの過酷な環境条件に強い無機」と、「建物の動きや変形にも対応しひび割れや剥がれを防ぐための高い柔軟性が特徴の有機」との無機有機ハイブリッド技術、また「塗膜劣化の原因物質『ラジカル』の発生を根本的に抑制するラジカル制御技術」を融合させたハイグレード塗料です。さらに、雨水が塗膜表面を流れる際に汚れを洗い流す親水性塗膜による超低汚染機能と、湿度の高い建物の北側などで発生しやすいカビや藻の発生を抑制する防カビ・防藻機能で、建物の美観を維持します。

特徴:

• 無機成分と有機成分の複合技術による超高耐久性。
• 水性タイプも展開し、環境配慮型である。
• 高い防藻・防カビ性能。

５．無機有機複合塗料のメリットとデメリット

①メリット

• 圧倒的な長寿命と耐候性: 25年以上の耐久性が期待でき、塗り替え回数を大幅に削減し、ライフサイクルコスト（LCC）を大きく低減します。
• 超低汚染性: 長期間にわたって美観を維持し、清掃などのメンテナンスの手間を軽減します。
• 不燃性・難燃性: 火災時の安全性を高めます。
• 高硬度・耐傷性: 物理的な劣化や傷に強いです。
• 環境負荷の低減: 塗り替え回数の減少は、廃棄物の削減や、塗料製造・輸送に伴うエネルギー消費の抑制に繋がります。
• 資産価値の維持・向上: 建物の美観と保護性能を長期にわたって維持できるため、不動産価値の維持・向上に貢献します。

②デメリット

• 初期費用が高い: フッ素樹脂塗料よりもさらに材料費が高価であり、一般的な塗料と比較すると初期投資は大きくなります。しかし、長期間で考えれば、塗り替え費用やメンテナンス費用を削減できるため、LCCで優位に立ちます。

• 施工の専門性: 高性能な塗料であるため、適切な下地処理や塗装方法が求められます。専門的な知識と経験を持つ塗装業者による施工が不可欠です。不適切な施工では、期待される性能が発揮されない可能性があります。

• 弾性力の限界: 有機塗料に比べて柔軟性はあるものの、極端な下地の動きや大きなひび割れには追従しきれない場合があります。微弾性機能を持つ製品を選ぶか、下地補修を確実に行うことが重要です。

• 補修の難しさ: 非常に硬く耐久性が高いため、一度塗膜が形成されると、部分的な補修が難しい場合があります。また、その後の再塗装の際も、強固な塗膜故に下地処理に手間がかかる可能性があります。

６．今後の展望

　無機有機複合塗料は、その優れた特性から、今後も市場の拡大が予想されます。

• さらなる高性能化: ナノテクノロジーの進化により、無機と有機の複合化技術はさらに高度化し、より一層の長寿命化、多機能化が進むでしょう。例えば、自己修復機能、発電機能、空気浄化機能などの付加価値を持つ塗料の開発も期待されます。

• 環境対応の強化: 水性化やVOCフリー化はさらに進み、環境に優しい塗料としてより広く普及していくでしょう。

• コストの最適化: 製造技術の確立や原材料の安定供給により、コストパフォーマンスがさらに向上すれば、より幅広い建物への採用が進む可能性があります。

• 用途の拡大: 建築分野だけでなく、交通インフラ（橋梁、トンネル）、産業プラント、再生可能エネルギー施設（太陽光パネルの保護）、医療・食品工場など、様々な分野での応用が期待されます。

７．まとめ

　無機有機複合塗料は、まさに塗料技術の結晶とも言える存在です。

　従来の塗料の限界を超え、建物の超長寿命化とメンテナンスコストの削減に大きく貢献します。

　初期投資は高額ですが、その卓越した耐久性と美観維持能力は、長期的な視点で見れば非常に経済的かつ環境に優しい選択肢となります。

　塗装業界における「無機有機複合塗料」とは、フッ素の「ラジカル制御型」塗料とも言え、「フッ素のハイブリッド塗料」として認知がどんどん高まっています。

　高耐久・低汚染という次元を超越した、「超高耐久」・「超低汚染」を実現した革命的な塗料です。

　「シリコン樹脂塗料」と比較すると、明らかな高コストになり、予算が合わないと考える方々も多数いらっしゃると思いますが、塗替え情報館では、この塗料の良さを知っていただくためにも必ず見積りに入れさせて頂き、検討をお勧めしています。

　現在でも塗料の改革が進められており、この無機塗料に関してもさらなる付加価値が付いていることがあります。

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